第4章 光る動物
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1. さまざまな発光生物
青白い光で、ほとんど熱を出さない
2. ホタル
光の至近要因
ルシフェリンにルシフェラーゼが働いて酸化が起こり、オキシルシフェリンになるときに光エネルギーが放出されるという一連の反応
ホタルには、腹部の末端に発光器があり、その中でこの反応が起こって光る
発光器には顆粒状の発光細胞の層と、光を反射する反射板とがある 反射板は発光細胞の後ろにあり、尿酸塩の結晶をたくさん含んでいる
表皮は色素がなくて透明になっている
光の色は種によって様々
大体において、薄明かりころに光るようなホタルは、黄みがかった色で発光し、もっと真っ暗になってから光るホタルは、青緑色の光を発する
それぞれの明るさで目立つ色
光の究極要因
ほとんどのホタルにとって、それは求愛の信号です
雄が雌を、雌が雄を見つけて配偶するために光のシグナルを送っている
光るホタルの求愛信号システムには、大雑把にいって、2つのタイプ
雌に羽がなく、じっとどこかにとまって一定の光シグナルを発し、それをめがけて羽のある雄が飛んでくるタイプ
雌の羽は退化してもう飛べない
雌にも羽があって飛んでいるが、まず雄が飛びながら非常に明るい光シグナルを発し、それに対して雌が、その種に固有の光シグナルで応え、何回かのやりとりのうちに両者が出会う
ゲンジボタルでは、雄が水路に沿って光りながら飛行するが、雌は、草の上にとまっていて弱く発光する
雌の発光を見て雄が雌に近づき、さらに求愛信号を出し合ったのち、交尾にいたる
この求愛シグナルは、それぞれが種に固有のパターンを持っている
発光の長さ、頻度とパターン、光の色、飛んで発光する時間帯、飛ぶ高さなど
こうして必ず同種の雄と雌が出会うようになっている
雄が約2秒間隔で2回発光し、その後およそ4秒から6秒休み、また2秒間隔で2回発光を繰り返す
それを見つけた同種の雌が、種に固有のパターンで応答する
応答は、相手の雄の発光が終わった直後の、絶妙なタイミングで発せられるので、雄も自分に対する応答だとわかる
ところが、雌をひきつけたい雄は、他にもたくさん飛んでいる
ライバル雄たちは、ある雄の信号に反応した雌を見つけると、すぐさまそちらへ飛んでいき、雌が最初に反応したもとの雄のシグナルに割り込んで自分のシグナルを送る
これがうまくいけば、ライバル雄は、その雌を途中からハイジャックすることができる
マレーシアに棲むプテロプティクスというホタルの仲間は、夕方に成ると雄たちが何本かの木に続々と集まってくる 何百、何千という雄が一斉に同調して光る
すべての木のすべての雄が同調して光る
雌たちはこの集団を目指してやってきて、そこで配偶相手を見つける
北アメリカでは、フォツリスというホタルの仲間がある行動を進化させたため、ホタルの発光シグナルに関する話は、たいへん複雑になった このフォツリス属のホタルの雌は、先に紹介したフォティヌス属をはじめとする、いくつかの他種のホタルの雌が発する応答信号をそっくりに真似て発光し、自種の雌だと思いこんでやってきたフォティヌス属などの雄を、捕まえて食べてしまう ホタルの成虫はほとんど何も食べないのが普通だが、フォツリス族は他のホタルを食べる肉食性のホタル
フォツリス属の雌は、一種ではなくて、いくつもの種の信号を臨機応変にまねることができる
彼女らは未交尾のときには自分の種に固有のシグナルを発し、同種の雄を引き寄せて交尾する
いったん交尾が終わると、今度は別の種の信号に切り替え、おびき寄せたその種の雄を捕まえて食べる
フォツリス属の雄も種に固有の発光パターンを持っており、それによって同種の雌をひきつける
ところがよく観察すると、フォツリスの雄は、自種に固有の信号の他に、少なくとも二種の、フォティヌス属などの雄の発光パターンをまねることがあるとわかった
これでは、つれあいの雌に食べられてしまうかもしれないのに、なぜそんなことをするのか
自分の種の雌が餌食にしている種の信号をまねて発している雄は、自分を餌だと思って食べに来た雌を逆に捕まえ、強制交尾をする
繁殖期の終わりに近づいてくると、未交尾の雌は数が少なくなってくる
さらにややこしいことには、餌食になる方のフォティヌス属の雄たちも、ときどき、自分たちを食べるフォツリスの雌の信号をまねて発光する
雌をひきつけるための雄同士の競争が激しくなったとき、雄は、わざと怖い捕食者であるフォツリス属の雌の信号を発し、他の雄を騙して、自分の周りから追い払っている
フォツリス属の雌が、他種の信号を真似て相手を騙して食べることは、フォツリスの雄と雌やフォティヌス属の雄同士の間にも、一連の騙し合いを進化させることになった
このような騙し合いの行動を進化させたのは北米のホタルだけ
ホタルは卵や幼虫も光る
求愛の信号であるわけはないので、考えられるのは、身を守るためということだろう
しかし、具体的にはわかっていない
光の発達要因
日本に生息数ゲンジボタルの場合、卵が雌のお腹の中にあるときからすでに光っている
産み付けられたばかりのころは光が非常に弱く、日が経つとともにだんだん光が強くなる
卵時代には、成虫のようにパターンを持って明滅するのではなく、常に弱いながらも昼夜光り続けている
孵化の数日前になると、なにか刺激があったときには、瞬時に強く発光する
卵が付加すると幼虫になる
ゲンジボタルの幼虫は皮の中に棲んでおり、カワニナという巻き貝などを食べている 芋虫のような形をしているが、お尻の先端付近に発光器があって光る
サナギになっても光る
ホタルの発光器は、脂肪体という器官から作られるのだと考えられている 脂肪体とは昆虫の腹部にある臓器の一種で、他の動物で言えば肝臓にあたる働きをしているところ
つまり、発光器は肝臓から発生してくるということ
ホタルイカなどの発光イカでも、発光物質は肝臓の中で作られている 光の系統進化
昆虫というグループは、動物界でもっともたくさんいるものの一つ 100万種類いる無脊椎動物の中で、昆虫がその4分の3の75万種を占めている その昆虫の中で最も大きなグループが甲虫類で、ホタルはそこに属している 昆虫という大きな分類群全体で見ると、発光するものは決して多くない
ホタルの仲間であっても、光らない種類も多い
日本国内には42種類のホタルがいるが、その中で成虫が点滅発光するのは8種類しかいない
北米のホタルでは、光らないものが約25種、ぼーっと光るだけのものが約20種、はっきりした点滅信号を発するものが約125種ある
ホタルの仲間を見渡すと、3つのグループに分けられる
昼間に活動する光らない種類
雌の出すフェロモンを雄が触覚で嗅ぎ分けることによって相手を見つける 羽のない雌が自分の巣である地面の穴のそばでぼーっと光る
雄は光らずに空中を飛び、光っている雌のところにやってきて交尾する
光を点滅させるホタル
雄が飛びながら自分の種に固有の点滅信号を発し、雌がそれに応え、やがて一緒になる
ホタル類の系統関係を見ると、昼間に活動して光らないものが最も原始的で、それからツチボタル、最後に点滅型が出現したようだ
ホタルの中には、この3つの方法を混ぜて使っているものがいる
ツチボタルだが、雄の触覚が非常に大きく、距離が離れているときにはフェロモンを使って雌を探す
光は近距離でないと見えないが、匂いは遠くまで届く
そこでこのホタルは、匂いを手がかりにして雌の近くまでやってきて、そこから先は光信号を使うようだ
これもツチボタルだが、雌を探している雄が時々強く光り、雌がそれに応答するように誘う
おそらくこのようにして、全く光らないで昼間に行動していたものから、だんだんに手の混んだ点滅信号を使うものがでてきたのだろう
この種類の雄には、腹部の先端に発光器がある
そして無理に光らせるとひかるが、普段は昼間だけ飛び、自然状態では自ら光らない
この種類の雄が雌を見つけたところは、これまでにたった1回しか観察されていない
そのとき、雄は、地面の中に腹部の先端を差し込み、どうやらそうやって地中にいる雌と交尾をしたようなのだ
雄の発光機は、このとき地面の中で光っているのだろうか
発見から100年以上になあるが未だにその雌を見た人は誰もいない
まだよくわかっていない
そもそも発光物質であるルシフェリンはどんなものから作られるようになったのか
ホタルの祖先が体内に持っていたどんな物質が変化してルシフェリンができたのか
3. ウミホタル
海底の砂地に潜っているが、夜になると海水中を浮遊し、ゴカイやイソメなどの海棲生物の死骸を食べて暮らしている 日本では沖縄から青森まで、主に太平洋側に分布
光の至近要因
ウミホタルのL-L反応には、ルシフェリンとルシフェラーゼの他には酸素だけが必要で、ATPは必要ない ルシフェリンとは、このようにして生物発光がおきるときに使われるタンパク質の総称
放出される光の波長は、ホタルでは約560ナノメートルだったが、ウミホタルはおよそ460ナノメートル
もっと青が強い光
ただしウミホタルは体内で光を発するのではなく、ルシフェリンとルシフェラーゼとを体外に放出し、そうして海の中に出ていった両物質が反応することで光る
ルシフェリンは上唇腺とい呼ばれる器官で作られ、そこで蓄えられている ルシフェリンが黄色であるため、上唇腺も黄色く見える
ルシフェリンとルシフェラーゼを使い切ってしまうと、一定の量蓄えられるまで、もう光れなくなる
光の究極要因
ウミホタルの発光は2つの機能があるようだ
捕食を逃れるための目くらまし
捕食者の目がくらまされている間に、砂にもぐるなどして逃げていく
この光り方は、雄も雌も、成虫も幼虫も行う
求愛信号
この機能のためには雄だけしか発光しない
配偶の時期になるとウミホタルは海面近くにやってきて、雄が発光しながら螺旋状に旋回して下降するということを繰り返して求愛する
この発光パターンも、それぞれ種に固有なものがあり、雌はそれに反応して交尾に至るのだろうが、細かいことはわかっていない
光の発達要因
ウミホタルは卵から発生するが、卵は母親の殻の中に守られていて、その中で孵化する
しばらくそこにとどまって成長したのち、満月の晩に母親の背中から放出される
母親の殻の外に出ていった幼虫は、すぐに海水中を遊泳して自分で餌をとるようになる
これが第一齢期で、この先、5回の脱皮を経て成虫になる
ウミホタルは自分で遊泳するようになったらすぐに光ることができる
卵の段階では光らない
第一齢期にはもうちゃんと上唇腺に発光物質を持っている
光の系統進化
ミオドコーパ目には、たくさんの種が含まれているが光るのはほんの少数
この種についても、どんな過程を経てウミホタルが光るようになったのかは、よくわかっていない
4. ホタルイカ
光の至近要因
全身に微細な発光器がいくつも分布している
外套膜、頭部、腕、眼球の周りなど
その中で最も強い光を発するのは、第四腕の先端にある3個の発光器で、これらは直径が1.4ミリメートル
ホタルイカの発光は、発光器の内部で行われる
ホタルイカの発光器は、その構造によって三種類に分けられる
第四腕の先端にあるもっとも大きな発光器
一瞬だけ強い光を発する
眼球上にある発光器
実際にどんな時に光っているのかまだよくわかっていない
皮膚に点在する発光器
かよわい光を継続的に発する
ホタル・ルシフェリンと似ているが少し違う
ホタルイカの場合もルシフェリンにルシフェラーゼが働くことにより酸化が起こって二酸化炭素が放出され、それとともに出てくるエネルギーが光に変換されて発光する
光の波長はどうやら、470ナノメートルと540ナノメートルという二種類があるようだ
後者は少し緑がかった青
ホタルイカは、発光物質ルシフェリンの前駆体であるプレルシフェリンを肝臓で合成し、それをルシフェリンに変えて各発光器に送る そこでは、不活性型として蓄えられているが、必要に応じて活性型に変えられ、ルシフェラーゼの働きによって発光する
発光した後は、オキシルシフェリンになるが、この物質はまた肝臓に戻されて、化学反応を経てプレルシフェリンに戻る 光の究極要因
皮膚に点在する小さな発光器
つねに弱い光
これは暗い海の中を浮遊している時に、下からやってくる捕食者(おもに魚)に見つからないようにするための戦略と考えられている
ぼーっとかすかな光を常に発し、下から見上げた周りの明るさに適合させて、自分自身の影を消す
ホタルイカは泳ぐ時は腹を下に、背を上にして泳いでいるが、皮膚の発光機は腹側に多く分布しており、背に近いほうの発光器は、光が真上ではなく、なるべく横方向に散乱するようにできている
この水深では太陽から届く光の色は、470メートルぐらいの青い光
光の強さの調節のために、周りの光の強さを感じる光受容器を備えている
いくつもあるが、その一部は頭の上、別の地位部は腹皮の皮膚の中にある
頭の上にある受容器は、外の光の強さを測っているのだろう
腹皮の皮膚の受容器のそばには発光器もあり、これで自分自身の発光の強度をモニターしているようだ
470ナノメートルの波長の他に540ナノメートルの少し緑がかった光もある
捕食者である魚たちには、普通は色は見えない
少し緑がかった色をホタルイカが出していても、それに気づくことはない
ところが、ホタルイカ自身はこの色を見ることができるようだ
考えられるのは、カウンターシェイディングがあまりにうまくいってしまうと、ホタルイカ同士も互いの存在が見えにくくなってしまうので、彼らだけに見える光を出して互いを認知しているのではないかということ
第四腕の腹側にある最も大きな発光器
これは敵がすぐ近くまで来た時の目くらましではないかと考えられる
実際、何かに驚くとホタルイカは一瞬光って、その間に方向転換して立ち去る
眼球の上にある発光器
実際に光っているところを観察した人がいないのでわからない
イカの目はことさらに大きく不透明なので、それに対する特別なカウンターシェイディングなのかもしれないし、別の機能を持っているのかもしれない
光の発達要因
詳細はよくわかっていないが、あまり小さいうちは光らず、少し大きくなって遊泳しているときにはもう光るようだ
光の系統進化
ウミホタルもたくさんある仲間の中で、発光するものはわずかのようだ
しかし、ホタルイカが属しているイカの仲間には、光る種類がかなりたくさんある
そのうち光る種類を含む科は16もある
ホタルイカはその中のホタルイカモドキ科に属し、この科には40数種が含まれているが、それらはすべて例外なく光る 世界中のイカは全部で450種いるが、そのうち180種、約40%が光る
これらの光るイカ類が使っているルシフェリンの構造は、どれもみな、ホタルイカのルシフェリンと同じ ホタルイカの仲間だけを見ても、発光器のつくりには3つの構造があり、どれもが持っている単純なタイプのものから、一部の種だけしか発達させていない複雑なタイプのものまで様々
光るイカ類全体を見ると、レンズなどのついた複雑な発光器を持つものから、もっと単純な発光器を持つものまで色々
また、自分では発光せず、体の表面に発光細菌を共生させて、それによって光るものもある イカ類は様々な、いろいろな程度に発達した発光様式を持っているが、どんなものがどんな系統からどのようにして進化してきたかという道筋は、あまりよくわかっていないようだ